ついに梅雨入りし、新緑だった淡い色の葉は青葉となり、晴間には日陰を作ってくれるようになった。 この場所は、枯れ沢の上の方から緩やかに風が吹き下ろし、巨大なチャートは良く乾く。ジメジメした日でも、暑い晴れ間でもこの時期には最適だ。 昼近くなり、虫たちの活性も上がり、僕のお弁当には、やたら小さな羽虫がいっぱい、たかっていた。よく見るとそれは羽虫ではなく、殿様バッタの幼生だった。 意外と成長が早く、そこいら中にいっぱいいて、僕の敷物はゴマを捲いたような状態だった。 自分でもビックリだったが、これが以外に、結構うれしく感じた。
公害やその類の影響による、自然環境の変化は普段気付にくいが、最初にそういった世界の末端に歪が生じ、そこから大きな障害へとスタートするものだろうから、小さな昆虫の営みを目の当たりにするのは悪くない。 …しかし深く考え始めると、この異常発生も、異常気象等に対する、それぞれの昆虫たちの種の存続のためのひそかな対策のひとつなのだろうか?
F田君は、「山のあなたの空とおく、幸すむと人は言う」と命名された、僕の大好きなラインを2便でRPした。
僕は「野生と文明の境界線」という約30mあるラインを数年越し、全3日目にて、やっと全ムーブを解決することが出来た。苦手なタイプのラインではないが、意外と解決は遅く手間取ってしまった。 しかし、その分気持ちはスッキリとした。 ここは、久しぶりに来るたびチョーク跡が消え、難しいムーブとホールドを探り、新鮮な感覚に戻り、心底クライミングを楽しめるこのエリアなのだが、最近はその岩にも若干変化が出てきた。 ホールドにはチョークが付き、珪藻類が消え、岩は謙虚に白く摩擦が増している。スポートラインとしてはいい状態に近付いているのだろう。
また、ここに来るたび僕は「山のあなたの空とおく幸すむと人は言う…」という、ドイツ人の作ったこの詩について、とても感心・共感してしまうのだが、最近はライン名や初登者のそんなことを考えて登る人というのは居るのだろうか?
次回来る時も、また梅雨の合間の晴れ間で、のんびりとクライミングを楽しめる日に訪れ、「野生と文明の境界線」をRPしたいと思った。 |