(13日)川は、コーヒーカラーだった。 出発する前に、何度かこのエリアの天気予方を確認した時には晴の予報だったのに、着いてみると空はドンヨリし、川は濁流で物凄いうねりだった。私よりカヌー経験の豊富なパートナーが何と言っても、自分のオブザベーションでの判断は左右されまいと、強く思い河を眺める。しかし、うねりの強い茶色い川を見ていると、僕には確実な勝算というものを導き出す事は出来ず、「不安」と「川に一歩も入らずに帰りたくはない」という。2つしか頭に出てこなかった。まさに事故の典型的判断だった。 しかし、パートナーの岳ちゃんの判断は、真逆という程違っていた。 前日に各ポイントを車で見て回り、攻略を相談したが、8割以上は勝算があるような口ぶりだった。 ライン取りは、いわれれば納得だし、綺麗な川なら僕もそんな想定で動けそうだが、濁流の水の質量や、見えない水中を波の形状などで予測することは僕には未知の経験だった。だからいくら相談していても、僕のオブザベが、実際のパドリングした時にマッチングするはずは、無いのである。そう言った事は、経験値がものを言うところが多く、今回はそれが安全管理や全ての成否を左右する目安ともなるため、彼の感覚に学ぶところの方が多い事は一目瞭然だった。 それに、僕は言いだしっぺという事もあり、このトリップを成功させたかったので、ただ一つの根拠もないまま不安を口にするのも避けたかった。多少の不安はあった方が冒険チックで楽しいかもと思い、何もない河原で、テントを向かい合わせにし、酒を飲んだ。 ヤドカリの様な状態で、彼と公私の事はもとより倫理的な話まで出来た時間は、やはり至福というべきなのか?良く解らないが、家でTVを見ている時の数百倍は楽しい時間だった。
僕らは、翌朝(14日)5時に起き、朝食を取ってテントを畳み、舟を脹らまし、両国橋上流よりスタートした。この日の天気は快晴だった。 いきなり現れた、ストレーナとなっている作業用沈下橋には肝が冷えたが(オブザベでは確認できなかった!)、互いに舵や障害物について声を掛け合い、次々にクリア出来た時、初めて僕は強く勝算を感じた。 最初の段階で恐怖と緊張の対象だった巨大な三角波も、1時間が過ぎるころには楽しんでいた。連続する三角波の第1波を越えると、舟体が大きく落下するため、第2・3波はバウで割り進む事となる、その度頭から水を被ることになるのだが、慣れてしまうとジェットコースターの様だった。 こうなると、あと注意すべきは、見えない水中の障害物と壁体やストレーナに掴まらない様に、確実にライン取りくらいだった。 一度橋脚に吸い込まれ、ハルの左を激突させたが舟の剛性が高く、スピードが付いていたため何無く抜けることが出来た。
無事にゴールでき、2人で感動し、その後岳ちゃんは電車で車を取りに向かった。 僕はゴール地点に残り、「2年前の多摩川の時とは大分違う!舟の性能も違うが、確実に経験は重ねることは出来た」そんな事を考え、半裸で河原で寝て待っていた。 気温は20度を越えていた。梅雨の間の素晴らしい夏日だった。 そのころ岳ちゃんは、電車の運転手に「もしかして、今日黄色い舟で下ってました?」と聞かれ「YES」というと、鉄道会社全体で出勤後話題になっていたことや、昨晩まで大雨で普段の水量の2倍以上で心配していたと言われたようだった。 川の状態は確かに一見危険に見えるが、僕らはかなり吟味した上での行動で、結果的に完勝でき、今回のダウンリバーでは、良くも悪くもいろいろ学ぶことが出来、人生における思い出の一ページとなった。 最高の一日だった。
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