岩場に向かう高速の車内の中で、今日の登攀をどういったものにするか妄想していた。 目標ラインは「ペガサス」と決めていたが、前回1ピッチだけ登っている「ワイルドカントリー」が、まだ僕の中では燃焼しきれていない気がしていた。Kさんが言っていた1ピッチとはいえないまでも、継続登攀してみたいという気持ちが心の何処に残って消えていない。 繋げば、高さは35m弱だろうが、ライン自体は40mを超えるだろうと思われる。 いろいろ考え、Wロープでスタートし、カンテを越えて1ピッチ目の終了点で1本ロープを外してしまい、2ピッチ目はもう一本を使い、継続するのが理想的に思われた。 U2にはアップと言いスタートしたものの、実際にはロープは結構な重さになり、こういった事に慣れていないせいか、恐怖心を煽られ本気トライに近いものであった。 冷静になってからラインを見ると、なんでもないガバガバのクラックだが、登りきって降りてくる時、美しいクラックラインとその小さな冒険的トライに自分自信は満足していた。
午後になり、U2が「春うらら2p」をトライするため二人で35m上のテラスを目指す。半日テラスで過すも、不思議と飽きず、時間はあっという間だった。 日溜りのテラスに腰掛け、南アルプスの方を眺めていると、いくつかの黄色く色づいた枯葉が半規則的に回転しながら、すぐ目の前を飛んで行くのが、まるで意思があるようにも見え不思議に感じた。
夕日が沈み始めて、全てが闇になるまであと30分前後だろうと思っている時に、テラスにキャメを一つ忘れていることに気付いた。取りに戻れば、間違いなく登りきる頃には、真っ暗になっていることは、二人とも容易に想像出来た。 闇の中クラックを進む自信の無い僕は、すぐに諦めたが、U2は行けると判断していた。 ギヤはキャメ3セット弱、エイリアン1セット?マスターカム少々、ナッツは2セット近くあったので、エイドでも玉数は十分だろうと思われた。 U2が焦ることなく、無理せず確実に進めば出来る事は解っていたが、スタートした後、僕はあえてエイドダウンが容易に出来そうな10m位登るまでに、2・3度「大丈夫?」と声をかけた。 U2は「大丈夫です」と言い、気合いを入れ直し、エイドアップし岩の中に消えてしまった。 小一時間程たち、夕焼で薄赤かった壁と、暗いながらもまだブルーに見えていた空は、一面に星空になっていた。 日中14度あった気温は2度まで下がり、足元は夜行性の虫が動き始めて、空中も蝙蝠が飛びまわっていた。 U2は、両足のクルブシを大分怪我していたが、最後は、星空の下楽しく撤収し、帰りには巨大な牡鹿やキツネとも遭遇し、誰も居ない山塊で良い思い出ができた。 |
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